寺山修司『馬敗れて草原あり』人はなぜ競馬に熱中するのか?

競馬関連本

寺山修司の競馬エッセイが好きだ。初めて読んだのは私が大学生の時だった。そこに書かれている競走馬たちは皆とうの昔に引退していて、私は彼らあるいは彼女たちのレースを観たことはなかったけれど(当時はまだYouTubeなどない)、そんなことは関係なく寺山修司の競馬エッセイに強く惹かれた。

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寺山修司競馬エッセイ・シリーズ

新書館の寺山修司競馬エッセイ・シリーズは全7巻。

 

『馬敗れて草原あり』
『競馬無宿』
『競馬への望郷』
『旅路の果て』
『山河ありき』
『競馬放浪記』
『さらば、競馬よ』

 

私が所有しているのは、新装復刻版。欲しいと思った時には、もう既に絶版だったのだけど、どうしても手元に置いておきたくて、当時プレミア価格となっていた古本を買い求めた。おそらく場合によっては今でも定価よりも高い値がついているのではないかと思う。

こんなに面白い本が絶版だなんて本当にもったいない。出来れば復刊するか、あるいは電子書籍化してもらいたい。

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寺山修司『馬敗れて草原あり』

寺山修司『馬敗れて草原あり』(新書館)を読んだ。

この本を初めて読んだのは大学生の時で、当時、私が持っていたのは角川文庫だった。

寺山修司の競馬エッセイは詩的で、叙情的で、競馬への愛が溢れている。他の誰にも真似できないだろうと私は思う。

 

「ニホンピローエースのどこがいいのか?」ときかれるたびに私は、「あの馬は美しい」と答えた。
「私はすばらしい金髪を一人と一頭知っている。一人は死んだマリリン・モンローで、一頭はニホンピローエースだ」

 

「人はなぜ競馬に熱中するのか?」———それには、あらゆる分析を上まわる一つの明快な解答がある。少なくとも私の場合。
私は、好きなのである。

 

競馬の歴史(歴史的事件)についても知ることができる。例えば、1969年の中山大障害で押しも押されぬ本命となったバスターの飼桶からカフェインを含む抹茶が発見された「抹茶事件」(バスター事件)、1965年のたちばな賞で行われた八百長「山岡事件」など。まるでミステリー小説を読んでいるようでドキドキした。

 

1965年(昭和40年)のダービーについてのエッセイもとても面白い。

1番人気のダイコーターに騎乗する栗田勝騎手を“「陽のあたる場所」を歩んできた日本の代表的ジョッキー”とし、2番人気のキーストンに騎乗する栗田騎手の弟弟子・山本正司騎手(※本文では「山本正」となっている)については、“暗い目をした痩せた男で、騎手になって九年目。キーストンによって、やっとダービー初出場の機会を与えられた。”と評している。ちなみに私が競馬を始めた頃には山本正司氏は調教師で、ミッキーこと松永幹夫元騎手・現調教師の師匠であった。

当時の週刊誌で、栗田騎手と山本騎手の「対立」について触れていたという。

 

栗田は「俺はダイコーターでキーストンには負けない。しかし、俺がもしキーストンにのり、おまえがダイコーターにのったら、俺はキーストンでも勝てるよ」と山本正にいったそうである。
山本正は、ずいぶん長いあいだ、こうした「屈辱」に耐えてきたことだろう。それだけに、陽のあたる場所にいる栗田を、はげしい思いで睨み続けてきたにちがいない。

 

「はげしい思いで睨み続けてきた」というのは、あくまでも寺山の想像ではあるけれど、何とも熱くドラマチックだ。

さらに、このダービーには、上田清次郎氏がダービー馬の馬主になるためにダービー直前になってダイコーターを買って馬主になったというエピソードまである。

しかし、寺山はこのエッセイではダービーのレース内容については書いていない。最後に「※」として、こう書いてある。

 

※レースの内容については書くことはない。それはテレビジョンや、本馬場のレースの方がはるかに雄弁だったと思う。キーストンは逃げた。キーストンは美しかった。他には何のことばもない。私は胸がつまり、そのキーストンに夢中で声を送っていた。

 

武市好古さんが、巻末の「[解説]寺山修司は生きている」に次のように書いている。

 

JRAの雑誌「優駿」で書いてほしい作家のアンケートをとると、いまだに寺山修司の名が上位に(一位かな?)あるのにおどろかされる。彼のレトリックで洗脳された競馬ファン、寺山によって競馬の楽しみを知った若者たちが、いまになっても彼の死を信じたくない、いや、きっとまだ生きていると信じているのである。

 

寺山修司のような競馬エッセイを書いてくれる人が現れないだろうかと、ずっと待ち望んでいるのだけど、そんな人はもう現れないのかもしれない。

 

『馬敗れて草原あり』(角川文庫)も持っている。林静一さんのカバーイラストのもの。その後、カバーデザインが変わったと思う。

文庫の解説は、山野浩一さん。

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