武豊騎手の『「勝つ」ための思考法~続・勝負師の極意~』(双葉社)を読んだ。
「続・勝負師の極意」とあるように『勝負師の極意』の第2弾。
武豊騎手の『「勝つ」ための思考法~続・勝負師の極意~』
武豊騎手がオフィシャルサイトで更新している日記を読んだことがある方にはわかるのではないかと思うのだけど、武豊騎手のエッセイの多くは、日記と同じように読者に語りかける口語体で書かれている。読みやすく、時にユーモアを交えて書かれた文章は、武豊騎手の声で脳内再生される。
『勝負師の極意』の第2弾である『「勝つ」ための思考法~続・勝負師の極意~』は、Kindle Unlimitedの読み放題で読むことも出来る(2022.09.02現在)。
それが歳を重ねることの意味であり、ベテランの渋さ
競馬のみならず様々な場面に通用しそうな名言があちこちに散りばめられており、「なるほど」と思いながら『「勝つ」ための思考法~続・勝負師の極意~』を読んだ。
例えば「失敗をどう次に活かすか」というタイトルのエッセイには、こんなことが書いてある。
———未知の体験も、一度、経験してしまえば、それはもう未知ではない。
これは、すべての人に当てはまる言葉です。
だれにでも、はじめてはあります。はじめてなんだから、失敗するのは当たり前です。
大切なのは、失敗を次にどう活かすのかです。
ひとつひとつの経験値を積み上げ、どんな状況になっても慌てず、騒がず、冷静にその場を見極め、適切な判断を下すこと———それが歳を重ねることの意味であり、ベテランの渋さです。
「根拠のある自信は心に余裕を与えるもの」というエッセイには、ファインモーションで勝った秋華賞について、次のように書いてある。
競馬に100%がないのはわかった上で、それでも、思い浮かぶのはファインモーションが勝つ姿だけでした。
スタートで出遅れても、こうすれば勝てる。
道中、内に包まれても、こうして、こうすれば、抜け出せるはずや。
最後の最後、2頭の競り合いになったら負けるはずがない。
根拠のない自信は過信に繋がりますが、根拠のある自信は、心に余裕を与えてくれます。
名馬との出逢いと別れ———人生はその繰り返し
武豊騎手は、「名馬との出逢いと別れ———人生はその繰り返しです」とこの本に書いています。
今はまだ彼のことを思い出すと、心の傷口が疼きます。
でも、いつか……そう、いつか、懐かしさとともに、彼のことを笑って話せる日が来たら、そのときはみんなで、サイレンススズカの速さを、凄さを、心ゆくまで語り合いましょう。
名馬の死による別れだけでなく、名馬の引退による別れも。
ディープインパクトは、僕をさらに成長させてくれた名馬中の名馬でした。
ありがとう、ディープ。
最後に、笑ってかけた言葉は、いまでも覚えています。
おまえと出逢えて……本当に幸せだった———。
※この本は、『週刊大衆』連載「勝負師の作法」をまとめたもので、書籍は2015年3月に発行されています。
兄弟といえども勝負に私情は厳禁。しかし…
「ゲートが開いた瞬間、親も弟も関係なくなる」というエッセイには、連載当時は現役の武幸四郎元騎手・現調教師のエピソードも。
レースがはじまってしまえば、先輩も後輩も弟も関係ありません。まずは自分の勝利が最優先。さらにその後で、親父のためにも、幸四郎が2着になってくれたらそれがベストだと思います。
それでも、幸四郎騎手が、メイショウマンボで勝って、武豊騎手がスマートレイアーで2着になった2013年の第18回秋華賞については、次のように書いている。
順序が逆だったらこれ以上ないほど理想的な結果でしたが、レース後、幸四郎の弾けるような笑顔を見られたことで良しとしましょう。
せっかくなので2013年秋華賞の動画(JRA公式チャンネル)を。
幸四郎騎手がゴール後に派手なガッツポーズで喜びを爆発させていますね。
ところが、「勝ちに行って掴み取った勝利は自信と勇気をくれる」には、負けられない一戦で幸四郎騎手に負けて、レース後にどやしつけたというエピソードが(笑)
それは、武豊騎手がスペシャルウィークで臨んだ白梅賞でのこと。このレースを勝ったのが、幸四郎騎手が騎乗した14番人気のアサヒクリーク。1番人気のスペシャルウィークは鼻差の2着。
兄弟といえども勝負に私情は厳禁。しかし、腹が立つのを抑えることはできません。
レース後、
「きさらぎ賞に出られなくなったらどうするんや!?」
と、幸四郎をどやしつけてしまいました(苦笑)。
兄弟ならではのエピソードでしょうね(笑)
わずか2センチの差でウオッカの優勝が確定した瞬間、安藤さんは…
以前、河村清明さんの『ウオッカvsダイワスカーレット 天皇賞 運命の15分と二人の厩務員』を読んだ。
『「勝つ」ための思考法~続・勝負師の極意~』の「真の天才ジョッキーは安藤勝己さん」というエッセイには、武豊騎手自らが語る2008年の天皇賞・秋のレース後のエピソードがある。
10分にも及ぶ長い写真判定の間中、僕は息をするのも苦しかったのに、隣の安藤さんは飄然としたままです。
そして、わずか2センチの差でウオッカの優勝が確定した瞬間、安藤さんは、あのいつもの笑顔で、
「おめでとう」
と右手を差し伸べてくれたのです。
なお、『「勝つ」ための思考法~続・勝負師の極意~』には、『特別対談 武豊×安藤勝己「トップジョッキー対談」』が収録されています。
それから、「馬の個性を活かすのが騎手の大事な仕事」というエッセイには、こんなことが書いてある。
「武さんくらいになると、ひと目見ただけで、馬の力がわかるんですよね」
イベントなどで、よくこんな質問をされますが、それがわかっていたら、年間400勝以上の勝ち星を挙げ、毎年、ダービーを勝っています(笑)。
武豊騎手のようなプロにもわからないのに、私がパドックで馬をちょっと見ただけでわかるわけないよな、と思いました。でも、最近パドックも予想に入れるのが楽しいから続けますけど。
勝負師の極意シリーズは第3弾まで刊行されているので、未読の第1弾、第3弾もいずれ読みたい。