2005年に史上2頭目となる無敗の三冠馬に輝き、その後も数々のG1レースを勝った名馬ディープインパクトが頸椎骨折のため安楽死処置が取られ、7月30日の早朝に死亡した。17歳だった。
武豊騎手、金子真人オーナー、池江泰郎元調教師など関係者のコメント
JRAホームページのJRAニュース「ディープインパクト号が死亡」より。
まずは、社台スタリオンステーションからのお知らせ。
社台スタリオンステーションからのお知らせ
繋養しておりましたディープインパクト号ですが、かねてより治療しておりました頸部の手術を7月28日に受けました。
手術は無事に終了して術後の経過も安定しておりましたが、翌29日の午前中に突然起立不能になったため懸命の治療を試みました。30日の早朝にレントゲン検査を行ったところ頸椎に骨折が見つかり、回復の見込みが立たないことから安楽死の処置が取られました。
突然の出来事で誠に痛恨の極みではございますが、謹んでお知らせいたします。
続いて関係者のコメント。
金子真人ホールディングス株式会社 金子真人代表取締役のコメント
無敗の三冠馬をあっさり成し遂げてくれたことにはとても感動しましたし感謝しています。最も感動したのは凱旋門賞で負けて帰国した直後にジャパンカップ、有馬記念を連勝してくれたことです。
その直後、あまり前例の無い4歳での種牡馬入り後も大成功してくれました。
マカヒキとワグネリアンの2頭のダービー馬も私にプレゼントしてくれました。突然の訃報に涙が止まりません。心から冥福を祈ります。
池江 泰郎元調教師のコメント
突然のことに大変驚いています。約2年の現役生活では最高の成績を挙げてくれました。今は心よりご冥福をお祈りするのみです。
武 豊騎手のコメント
体調が良くないと聞いていたので心配していたのですが残念です。私の人生において本当に特別な馬でした。彼にはただただ感謝しかありません。
生産者 ノーザンファーム 吉田勝己代表のコメント
ノーザンファームの過去の生産馬の中でも間違いなく最高の競走馬でした。種牡馬としても大成功をしていただけに本当に残念です。心よりご冥福をお祈りします。
出走した全てのレースがDeep Impact
私がディープインパクト死亡のニュースを知ったのは、30日の正午過ぎだった。
ディープインパクトは現役時代も超が付く名馬であったが、引退後も名種牡馬として数々の名馬を世に送り出してきた。しかし、今年の3月に首に痛みが出たため種付けを中止していた。先日こちらも名種牡馬のキングカメハメハが種牡馬を引退したが、ディープインパクトもそろそろ引退するのだろうか、そう思っていた。ところが、つい先日、来春の種付け再開を目指すという報道があったので、回復の見込みが立ったものと喜んでいたのだが、非常に残念なニュースが飛び込んできた。
私が競馬ファン、そして武豊騎手のファンになって20年以上経つ。これまで武豊騎手が手綱をとった数々の名馬、名レースを見てきた。
もちろんディープインパクトもそんな名馬たちの中の一頭、しかも特別な一頭だ。
アンカツこと安藤勝己元騎手がツイッターで最も印象に残っているディープインパクトのレースを明かした。
ディープインパクト。その名に相応しい衝撃レースの数々、種牡馬入りしてからもあれだけの金字塔を打ち立てるとは思わなかった。そんなディープで最も印象に残っとるのが、実はデビュー戦。レース終わってユタカちゃんがG1制した時でも見せない表情で興奮してたの。伝説を残すってその時点で確信した。
— アンカツ(安藤勝己) (@andokatsumi) July 30, 2019
「レース終わってユタカちゃんがG1制した時でも見せない表情で興奮してた」
これは、現場にいたアンカツだからこそ見ることが出来た表情だろう。
確かにディープインパクトのデビュー戦は衝撃的だった。
ディープインパクトはデビュー戦からゲートの出はそれほど良くはなかったが、難なく好位につけ先行、直線に入り、武豊騎手が追い出すと他馬が止まっているかのように軽々と加速。
そして、なんと直線で武騎手が股の間から後続馬を確認する余裕さえ見せた。
そんな余裕たっぷりの走りで上がり33.1秒、2着に4馬身差をつける圧勝でデビュー戦を勝利で飾った。
確かに衝撃的なデビューではあったが、この時、私にはまだディープインパクトの強さはわかっていなかった。
私がディープインパクトのレースで衝撃を受けたのはどのレースか、改めて考えてみた。
私が衝撃を受けたのは、クラシック最初のレース、皐月賞。
スタートで躓き出遅れ、後方からレースを進めることになった武騎手とディープインパクト。距離が長く、広くて長い直線のダービーなら慌てることはないかもしれない。しかし、中山の芝2000mで行われる皐月賞であの出遅れは致命的にも思えた。
後方から馬群の外を回って徐々に前に進出するディープインパクト。3〜4コーナーで武騎手の手が動く。これまでのレースでは見せなかった武騎手の動きに、やはりG1、そう簡単には勝てないだろうと思った。
しかし、ディープインパクトは直線で一気に加速、前の馬を捕らえると、後ろからは誰も付いて来ることが出来なかった。
まるでスタートでの出遅れなどなかったように2着のシックスセンスに2馬身半の差をつけて皐月賞を快勝、同世代で唯一3冠馬となる権利を得た。
ダービーよりも菊花賞よりもこの皐月賞が私には深く印象に残っている。
もちろんダービーも衝撃的だった。やはり出遅れ気味のスタートから道中は後方待機。この時はもうディープインパクトの強さには何の不安もなかったが、内枠だったこともあり馬群の中にいたのが気になった。他馬の騎手も簡単には勝たせたくないだろうから囲まれて動けなくなる可能性もある。
しかし、武騎手は4コーナー手前でいつの間にかディープインパクトを外に持ち出していた。そして、4コーナーでも前に壁が出来ないよう大外を回って直線でもこれでもかというほど外を走らせた。
一方、ラチ沿いの経済コースを走って早めに抜け出したインティライミはセーフティリードを取っており、完全な勝ちパターンのはずだった。
しかし、ディープインパクトは想像を超えた桁外れの馬だった。
直線の坂を駆け上がり残り100m付近でインティライミを捕らえるとあっという間に突き放し、5馬身差でダービーを圧勝、無敗のダービー馬となった。
インティライミは3着シックスセンスに2馬身半差をつけて2着。自ら早めに動く十分強い内容だったが、相手が強すぎた。
レース後に優しく何度もディープインパクトを撫でていた武豊騎手。
名騎手と名馬の名コンビはそれまで競馬に興味がなかった人々をも魅了、新たな競馬ファンが増えた。
武豊騎手の「私の人生において本当に特別な馬でした。彼にはただただ感謝しかありません。」というコメントを目にした時、名コンビによる数々の名レース、名シーンが思い浮かんで思わず涙が出た。
たくさんの思い出をありがとう。日本の競馬界にたくさんの名馬を送り出してくれてありがとう。
どうぞ安らかに。